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アニメーションの散歩道

政治、経済、そしてアニメーション

  アニメーションとは一般的に児童向け、あるいはファンタジーやギャグが
多いのです。でも最近は社会問題テーマ作も目立つようになりました。
それもあからさまには見せずに観客に考えさせる力作が散見されます。
うれしい。

メリー・ポピンズ リターンズ
MARY POPPINS RETURNS
米国 2018年(日本公開2019/2) 130'
監督:ロブ・マーシャルRob Marshall
原作:パメラ・トラバース Pamela Lyndon Travers『メアリー・ポピンズ』
製作:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、ルカマー・プロダクションズ、
マーク・プラット・プロダクションズ(Mark E. Platt)

 

メリー・ポピンズ リターンズポスター

メリー・ポピンズ リターンズ ポスター

 

いうまでもなく W.ディズニーのミュージカル・ファンタジー映画。もちろん
実写ドラマがほとんど。でも思わぬ所でアニメーション合成シーン、あるいは
アニメだけのシーンも多い。見逃せない。

昔の「メリーポピンズ」
この新作、キャラクターと状況の設定は原作童話そして映画化前作の
後日談になってます。原作もシリーズ物なので安心して見ていられます。
前作はイギリス上流階級の生活を舞台にくりひろげられたファンタジーで、
一部の特撮には息を飲みました。でも全体的にはとっつきにくかった。私
には彼ら上流階級生活の知識はありません。違和感抱きながらも「あんな
ものかな?」止まりでした。でも公園での回転木馬シーンでうんざり。木馬が
回転するとその支え柱が下草の生えている公園の土をほじくって回る。
アニメ合成ですが物理的な拒否感が最後まで残ったものです。
もっとも原作者自身、旧作映画は評価していなかったそうです。音楽が
マッチしていない、設定自体甘い話になりすぎていたとか。

 

新作リターンズ
しかし今回新作ではそのような拒否感は覚えません。上流階級でも生活
の厳しさに追われるドタバタが続き共感呼びます。とはいいながら家政婦
さんまで雇って、あんな高級邸宅にお住まい。先祖からの遺産とは言え
結構なご身分。お住まいは2階建て、ゆったりとした階段、お庭にはテラス
に緑の芝生。玄関は公道沿いですよ。

労働者の生活
でも開幕早々は別の話。も一人の主人公街頭ガス燈の点灯夫ジャックの
陽気な日常仕事ぶり。自転車に伸縮はしごを積み、それが荷台に専用の
収納器付きで、はしごを前後積み。珍しい装置が目を引く。早朝歌いながら
あちこちのガス燈を消し、カバーガラスがくすんでいればはしごで登りすす
拭い。ガス燈消し棒にしても使ってるのは簡単な道具です。でも今では
珍しい。こういった小道具の時代考証がていねいで楽しい。
次のガス燈へ自転車走らせながら野菜荷車からひょいとリンゴ1個盗みとり、
街頭炊き出しに並んでいる失業者らしき列にポンと投げ与える。彼方には
ホームレスらしき男まで公共建物階段にうずくまってる。暗い世相だ。舞台は
ロンドン、そこは北緯52°ぐらい、日本列島でいうと樺太北部あたり。冬は
寒さが応えるはず。ミュージカル仕立てで陽気を装っているが悲惨だ。
と思ったら時代は1930年代、世界大恐慌です。スタッフには今の社会に
広がっている所得格差拡大から過去を振り返り、何とか教訓を引き出したい、
現実への抗議を込めたい、そんな想いがあったようです。
ガス燈夫とお互い思いあっている彼女は労働運動の活動家。貧民への
炊き出し慈善活動もしている。二人とも生身の労働者。でも貧しさなんかに
負けるもんか。つまりありきたりファンタジーではなかった。かなりビターな
ドリーム世界。
しかしこれだけの社会性、問題提示を資本主義の権化、ハリウッドのプロ
デューサー連中(マーク・プラット 他)がよくも認めたものだ。実務グループが
有能で交渉に長けていたのかも。

 

バンクス家の生活
も一人の主人公バンクス家、当主マイケルと3人の幼子たち。子どもは遊び
盛り。延々とドタバタ。お父さん疲れてる。昨年奥さんを亡くしたばかり。苦労
してます。そこへメリーポピンズ降下。日傘を差し空中を浮かびながら。彼女、
そして日傘まで影が家の壁に映り移動していました。アニメ合成でしょう。
バンクスさん幼い頃ポピンズに育てられていたので「やあメリーポピンズ、久し
ぶりだね、よく来てくれたね」 スムーズに家庭教師として迎え入れる。余計な
説明なく快調なテンポ。
しかしご主人、奥さんに先立たれる前は家計一切任せきりでした。生活
能力なし。絵を描くのが大好き。「ボクは絵を描くしか能力ないんだ」 この
自認はいかにもアニメーターあるいはアニメプロダクションらしい発想です。
でも世界大不況1930年代では絵が売れるわけもない。今は銀行の出納員で
身過ぎ世過ぎの生活。時には姉さんのジェーンもやってきていろいろ面倒
みてくれてる。姉さんとしては可愛い甥っ子姪っ子のためという気持ちで
しょう。その彼女まだ独身で近所住まいらしいが、あの炊き出し慈善活動
してる人でした。この設定にはびっくり。階級を越えた行動です!
ところでバンクスさん、奥さんの葬儀で勤務先の銀行から融資受けていま
した。その返済が滞っていた。銀行代理人弁護士からの催告「何月何日
までに全額お支払頂けない場合この家を差し押さえます」。このシーンで
弁護士の助手は黒人でした。'30年代に黒人があれだけの社会的地位に
つけたかは疑問ですが。ともあれバンクス家にお金はない。「待てよ、お宅
の銀行の株を相続してました。あの株券どこにしまったかな? それがあれ
ば相殺できますよね」 今の時代、上場企業では株券なんかとっくに廃止
されコンピューター管理になっています。でもここは昔のお話。かくして
家捜しドタバタ。

経済面での疑問
でもちょっと待ってください。株主なら年1回は決算報告書と株主総会招集
状が届きますよね。たとえ総会に欠席しても配当金はもらってたはず。'30年
代では配当金の銀行振込はなかったかもしれない(未確認)。その場合は
為替か振替だな。その通知書には株主番号も記載されています。当時は
まだ株主コードはなかったのかな?とにかくそういった資料があったはずだ。
あるいはその銀行、非上場でそこまで管理が整っていなかったのかもしれ
ない。だったらより一層出資者たる株主と経営陣の人間関係が濃密なはず
なんだけど。
悪役の資本家がバンクスさんの父親の出資台帳を破り、燃やしてしまう。
「これで証拠は消え失せた。あの豪邸はウチの物だ。今までこのやり方で
あちこちの家をモノにしてきた。今度はあの家だ」 私、ここでも引っかかり
ます。古い豪邸に価値が出る、資産価値が上がるのは景気のいい時代で
す。逆に不況、デフレの時代には名建築といえども捨て値に下がってしま
います。家を手に入れてもうま味、もうけはわずか。金融資本家としては割に
あわない行為なんですよ。経済を専攻してきた私としては、あれこれつっこみ
たくなります。
その行方不明になっていた株券は、実は子供が手作りしてたたこ(凧)の
はり紙に使ってた。この再発見されるプロセスは映画としては面白いのです。
でもやはり疑問。昔の株券とはある程度分厚くかなり丈夫な紙にエッチング
印刷、あるいは手書きされ、更に日本ではハンコ、西洋ではサイン。いずれ
にせよ たこ にはり付けるような薄紙ではないんです。奇妙です。

すばらしい美術とアニメーション
ロングショットで何度も感服したのがロンドン市中のオープンセット。遠景は
書き割り合成でしょう。でも実に大きく堂々としていて美しい。思わずのめり
込んでしまいます。その石畳の道をクラシックカーがスイスイ走り回る。あれ
だけの台数、よくぞ復元した! この美術部門だけでも一見の価値。大時計
ビッグベンの5分遅れ、ドタバタの伏線と塔内アクション、まるで断崖登りの
スリルも楽しませていただきました。宮崎駿の「カリオストロの城」にも影響
受けてるな。
アニメーションと実写合成のミュージカルではそれほどの感銘なし。むしろ
アニメーターが実写シンクロの縛りから解放され独自の工夫を展開させた、
つまり純アニメ シーンに見どころあり。陶器びんの上絵の中にもぐりこんで
びんの割れ目を補修しようとするエピソード、馬車に乗って陶器絵の中を
漫遊します。その馬車のサスペンションの効き方描写、実にすごい! これは
馬車文化の伝統が浸透してた国ならではのごていねいな作画です。
日本は島国、山国です。せいぜい荷車しか普及しなかった。だから日本
ではこういうアニメーション作画はとても無理、そもそも発想が湧いてこない。
平安時代京の都のお公家さんたちは牛車(ぎっしゃ)で優雅に御所と行き来
してました、と思ったら大間違い。あの牛車にはサスペンダーがないのです。
都大路は今とは違いアスファルト舗装もされていなかった。つまり牛車って
乗り心地かなり悪かったはず。私は乗ったことないけど。
それがこのアニメ シーンでは馬車の各部がサスペンダーの伸縮に伴って
跳ね上がるのが大げさに描かれてる。痛快なギャグ。
実写ミュージカルでは点灯夫たちの街頭群舞のダイナミズムが圧倒的。
シンクロナイズドされた脚動には呆然と見とれました。

とにかく問題は多い、多すぎる。でも楽しくニコニコできます。
ところでガス燈ジャックのリンゴ盗みといい、仕事用自転車に子供3人と彼女、
彼の5人乗りシーンまであった。これでは日本の文科省選定にはならない。
お役人は怒ったでしょうねぇ(笑)

見終わって思いました。バンクス姉さんとジャックとの仲って、もしかして
原作者の出自と関係しているのかもしれません。トラバースさんはオースト
ラリア出身でイギリス移住。オーストラリアとは元々イギリスの流刑植民地。
イギリスは階級制の国。作者は時には嫌な思いもしたのではないでしょう
か。その思いが原作シリーズにも反映し映画化にもにじみ出た……そんな
解釈もできそうです。

 

ソマリア94 ジ イラリア アルピ アフェア

英題:Somalia94 - The Ilaria Alpi affair (ソマリア’94年 イラリア・アルピ
事件) 伊題:Somalia94 - IL caso Ilaria Alpi
イタリア作品 監督:マルコ・ジオロ Marco Giolo
製作: Marco Giolo animation studio http://www.marcogiolo.com
via Marcoconi 78, 30010, Pegolotte di Cona(VE), Italy
2017年 38'00''


ソマリア94

ソマリア94 ジ イラリアアルピ アフェア
©2017 Marco Giolo

昨年、2018年の広島アニメ・フェス「平和のためのアニメーション」で上映。
おそらく日本での初公開でしょう。そしてア然として画面に没入した私です。
「こんな事はよくある話さ」と事件が消費されていく、この現実にもゾッとしま
した。

ソマリアとは、
大体ソマリア内戦について、日本人はほとんど何も知らない、というより
関心がない。なのでちょっとレクチャー。
ソマリアとはアフリカ大陸の東北。1960年、イタリア領ソマリランドと英領
ソマリランドが合併して独立。民族は回教徒のセム族主で黒人も多いとか。
首都モガンジシオ。なお旧仏領ソマリランドは1977年、ディブチとして独立、
別の国になってます。
ソマリア内戦とは独立してもクーデターで独裁者の入れ替えとわがままが
続いた末に内戦と隣国侵略が続き、民は窮乏。国連が介入したが失敗。
中央政府も首都もない状態。更にエティオピア軍も介入。2012/9「正式
政府」ソマリア連邦共和国発足するもやはり内戦継続中。まさに泥沼化して
いるようです。

戦争ジャーナリスト
つまりソマリアの一部は昔、イタリア領だった。だからイタリア人はソマリア
内戦に関心、あるいは経済交易もあるのかも。
住民はイスラム教のアラビア人主体だが、お互い憎悪に燃え、近代火器で
殺し合いが続いている。幼子はおびえ泣く毎日。親だって泣きたい。観客の
私も胸がしめつけられる。
戦争は石油か何か、資源争奪が発端らしい。が、いつしか“敵”を一人で
も多く、男や女、老若を問わず殺すことが自己目的化していったようだ。そ
れを伝える伊TV報道クルー。といっても女性レポーターにカメラマンせい
ぜい2人、計3人ぐらい。実写風3DCGで迫力ありすぎ。

その武器は?
彼女いつしか戦闘員の手にする銃器の流入ルートに疑問を持つように
なる。一旦帰国してあちこちつて をインタビュー、報道し続け、やっと武器
の供給元を探りあてる。「罪のない市民が次々に殺されているのです。どう
して武器を売り続けるのですか?」 、武器商人ボス「いやあ私たちは単に
ビジネスでやっているだけですよ。それがどこへ渡り、どう使われるかまでは
責任負いません。それは相手の責任です」。安楽いすに深々と座り、葉巻を
くゆらせ、いんぎん無礼、いけしゃあしゃあ。がっかり退去する彼女、イラリア・
アルピ。と、彼女が席を外した途端、ボスの顔がサッと変わり電話で何事か
指示。
待てヨ、ボスのこの言い逃れ、今問題になっているメキシコ麻薬戦争にも
当てはまるな。麻薬を栽培してるのはメキシコ、それが様々なルートで米国
へ密輸される。メキシコ内では麻薬利権をめぐってマフィア同士の殺し合い
が日常茶飯事。警察も軍隊もマフィアの手先で何もしない、できない。
真面目に探索しようとする正義の士はあっという間に消されてしまうようだ。
マフィアは近代兵器で武装しているから。ここで麻薬を消費してるのは米国、
マフィアに武器を供給しているのも米国だ。この武器商人はいずれも「普通
のビジネスですよ。武器は自衛のための必需品です。それを悪用する人間
が悪いのです。武器に責任があるわけではありません」。いなおっている。
ソマリア内戦ではより一層悪らつな現象が…

兵器産業の闇
アルピ、がっかり。でもジャーナリストの仕事を続けよう。TVクルーは再び
ソマリアへ飛ぶ。依然として激しい激しい戦闘、殺されていく市民。悲惨な
眺めが続いていた。と、彼方、壁の陰に狙撃兵がこちらを狙っている。標的、
なんとアルピ。1発、外れた。ハッとするクルー。しかし銃声はあちこちで響く。
どこから狙っているのか、偶然のはぐれ弾かもわからない。身をどちらに隠す
のかも見当つかない。やむなく負傷市民の手当てを続ける彼女。と、次の
1発、彼女に命中、絶命。
そしてイタリア。飛行機から彼女の棺が降ろされる。出迎える親類筋、政府
関係者、そしてジャーナリスト仲間。「ソマリアではこのような殺人が毎日くり
返されているのです」TVカメラに向いアナウンサー絶叫。そう、その状況に
紛れて“余計な事するうるさい女”が殺された、消されたのだ。
なお私は英語字幕版で見ました。日本語版はまだないのでしょう。DVD
輸入希望者は前記URLクリック。

ジャーナリストの使命
アニメとは思えぬ重い内容と迫真の画面。私の感覚では実写ドキュメンタ
リーと皮膜の内でした。そして最近の日本の風潮とも併せ考えさせられまし
た。日本人ジャーナリストがシリアで反政府軍に拘束され身代金交渉の末
殺害された事件がありました(2015年1月)。当時日本ではなんと「危険地帯
に勝手に入りこんだ本人が悪い」「自己責任だ」と難詰する発言が相次ぎ
ました。事実を発掘し究明する態度をあざ笑う自称良識派があふれています。
知識なくして発言資格なし、この原則を持ちましょう。

チェブラーシカ 動物園へ行く

2015年 日本作品 2016.7/30公開 18’
監督:中村誠、 原作:エドゥアルド・ウスペンスキーEduard Uspensky
脚本:エドゥアルド・ウスペンスキー、中村誠、ミハイル・アルダーシン
ゼネラルプロデューサー:及川武、 プロデューサー:岩崎卓
美術監督:ミハイル・アルダーシンMikhail Aldashin、 ミハイル・トゥメーリャ
配給:ジャパン・スローシネマ・ネットワーク

チェブラーシカ 動物園へ行く
チェブラーシカ 動物園へ行く

 


チェブラーシカ こちらのポスターでは添え物扱い


なんと国産品 観客わずか
私はイオンシネマ大宮で見たのですが入場してびっくり。観客は私一人。
まるで王様気分? しかしさみしい、いくらウィークデイの午前中とは言え…
私はこのチェブラーシカを見たくて映画館に行ったのですが、短編のため
興行側には添え物、同時上映扱いでした。
てっきりロシアの短編パペットアニメーションだと思ったら日本映画なの
です! ロシア人スタッフも一部絡んでるパペットで、その意味では2009年
のTVシリーズ放送版、2010年のリメイク 3話短編集劇場版と同じ。この時
は撮影一部が韓国のファンゴ・エンターテイメント社にも外注化されていて
ロシア色は薄まっていました。今回の新作も一部ポスプロ工程は韓国が
担当。おそらく日本語せりふシンクロ録音でしょう。この新作がロシア本国
でも公開されたのかは未確認。とにかく私が見たのは日本語吹替版。

これまでは大人気
このチェブラーシカ・シリーズ、第1作を見て映像の楽しさとワニのゲーナ
のアコーディオン演奏にうっとりした記憶が鮮明。当時女の子の間では
チェブちゃんなんて愛称もついたな。ただし主人公の動物、何科なのかは
遂に不明。全身ムクムク毛皮に包まれているので哺乳類のようだ。いや
そんなこと言っててはダメ。とにかく可愛いのです、ぬいぐるみ人形が。
怪盗おばあさんなんて、ちょっといかがわしいキャラクターもレギュラー。
それがまた魅力。彼らの生活風景が独特な空気でした。

 


ゲーナとチェブラーシカのお部屋

そして新作は
今回は相棒のワニのゲーナが風邪ひいちゃった。彼って動物園にお勤め
してます。熱が出てお休み。代わりに同居人(?)のチェブラーシカが出勤。
ところでこの主人公お名前、日本語吹替版はきちんと“ラー” にアクセント
つけた発声でした。好感もてます。
どんなお仕事? それが動物園受付で従業員出勤簿のプレートを“出勤”
コーナーにぶら下げて(タイムレコーダー代わり)守衛のおじさんにご挨拶。
動物を見せるオリやさくの中に着席(?)するんですよ。ええっ、ここの動物園、
動物は飼われてるんじゃなくて出勤してます、サラリーマンみたいに。人間の
入園者に見てもらうお仕事です。キリンもライオンもワニまで。でも通勤電車
風景までは出てきません。よほどの職住近接なんだな、私ニヤリ。
園の守衛さんにもびっくり。いかにも警官そっくり制服。ここまではいいの
ですが、銃まで持っていた! 動物園って人間のちびっ子や親が集まる
施設ですよ。そこの守衛兼受付係がドヤ顔で武装してる。ロシアの風俗を
そのまま映像化したのでしょう。でも私は日本の風俗しか知らない。なので
かなり混乱させられました。
さてゲーナの代わりにワニ舎に収まったチェブラーシカです。お客さん
「ワニの耳ってあんなに大きかったかな?」にはクスクス笑い。ワニには耳は
なかったよね。チェブラーシカ、あわてて読んでた新聞で頭を隠す。ギャグ
ですが、語りオチに寄りかかった演出態度は感心できません。幼児向け
企画にしても安易です。
ま、ストーリーはあってないようなもの。ほのぼの世界がくり広げられ一日の
お仕事終えマイホームへ。ちょうどゲーナのお熱も冷めてきた。額に当てて
いた濡れタオルを外してやるチェブラーシカ。私、何となくホッとしてにっこ
り。ここの室内セット美術は単純、家具配置や壁に貼られた子どもらしい
お絵かき、雑然とした様子などが家庭らしい雰囲気をかもし出していま
す。暖かみがあっていい。美術ミハイル・アルダーシンMikhail Aldashin、
ミハイル・トゥメーリャ(ローマ字スペル不明)は今後の仕事に要注目。

何となくの不満
しかし全体的には力不足だった。見終わっての印象が弱い。脚本未熟と
断言します。同時上映の長編アニメ「ちえりとチェリー」にも最後まで違和感
覚えたままでした。たった一人の観客、私は釈然としない顔で劇場を出た
のです。


プロフィール

小松沢甫アイコン

小松沢 甫 (こまつざわ・はじめ)

日本アニメーション協会 会員・歴史部会
古いフィルムの発掘、保存、公開にも努力
研究は内外の専門書で引用紹介されている
論文に「太平洋戦争とアニメーション 今日も続
く1940年体制・意外で奇妙で厳然たる事実」、
「幻の東宝図解映画社」 主著「持永只仁の足跡・
運命をきりひらいたアニメーション作家」、共著
「キネマ旬報日本映画監督全集(1976)」「山形
国際ドキュメンタリー映画祭 '91 日米映画戦」
など