カルチャー系ウェブマガジン「ReadingParty」

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アニメーションの散歩道

パペット・アニメーション健在

 3D CG全盛時代でも相変らずパペット(人形)アニメーションの力作が
きちんきちんと見られるのは幸せです。CGってのは特殊効果の手法の
一つとして使われているのなら楽しいのです。でも今ではまるで自己
目的。延々と超現実の画像が続く映像がのさばってます。見てても
やがて飽きてしまう。アメリカ映画では特にその傾向がひどい。リップシン
クロ、つまり口ぱく同調したセリフがベラベラ流れあふれるのは映像鑑賞
を妨げます。どうもあの国ではTVバラエティー番組ノリが基礎にあるよう
です。アニメーションは製作資金が高い、なので対象観客をなるべく広げ
よう、スポンサー受けを狙っての傾向でしょう。
でもそんな時代でも昔ながらの手作り人形アニメ、それも快傑作を見ま
した。この手法ですが最近ではストップモーションと呼ばれる例が増えて
いるようです。でもこれでは特撮の一部としての意味が強くなります。やは
り パペットPuppet アニメーションと呼びます、私は。

 

すごいぞアードマン
まず「ウォレスとグルミット」、「ひつじのショーン」など日本でも大人気だっ
たイギリスのアードマンAardman Animations の新作
アーリーマン ダグと仲間のキックオフ! “EARLY MAN”
監督ニック・パーク Nick Park、制作ピーター・ロードPeter Lord、デビッド・
スプロクストンDavid Sproxtonなどここではおなじみメンバーがスタッフ。
もう期待しちゃいますよ。

映画「アーリーマン」ポスター

「アーリーマン」ポスター


原始人、サッカーを楽しむ
原題は初期人類といった意味かな? とにかく石器時代人が自分たち
の生活圏、そして生活権を守るためにサッカーの熱戦。でもねえスポーツ
の妙技、アクロバットまがいのパフォーマンスは会場で目の前で見てこそ
の迫力、あるいはTV中継でもいい、とにかく生身の人間を見ての感動と
大歓声ですよ。絵で描いたり、このアードマン・プロのような人形を動かし
てのアニメでは「あっ、そうですか…それで?」とシラケるのが普通。ところ
がこの先史時代を舞台にしたハチャメチャ試合の迫力には、つい私、
興奮。前のめりでスクリーンに見入ってました。これはアニメーターや撮影
デイヴ・アレックス・リデッドの力量もあろう。さりながら演出もすごい。やはり
このスタヂオは才能集団だ。

サッカーのルーツ!?
昔むかし、原始時代の地球。「今のケンブリッジあたり、ランチタイム頃」
のインサートタイトルに苦笑。人類と恐竜が仲良く食いあいしていました
とさ…この映画では。
突如、天空から巨大な炎が落下、大爆発。つまり巨大隕石。火の粉と
爆風。SFではお馴染みシーン。落下地点には巨大なクレーター。辺りは
一面の焼け野原。にもかかわらず人類は生き延びてた! 隕石のカケラを
「熱い、熱い」言いながら足でけり、遊び始めた。楽しかったのでその様子
を洞窟の壁に描きました。これぞサッカーのルーツ。ホンマかいな!? とに
かくサッカーの本家は我がイギリスじゃ、という自負心というか、うぬぼれが
あふれています。大笑い。
「そして何百万年後」、またもや無責任な居直りインサート。とにかくクレ
レーターは緑のジャングルに再生。人類や動物はここで生活。しかし周り
は荒れ地。でもなぜそんな土壌の違いができてしまったのかは最後まで
分からなかった。ここらから舞台設定の破れが気になりラストまで満足な
回答エピソードは見られない。マンガと言っても正確な構成はほしいよ。

ナウシカみたいな舞台設定
主人公ダグ少年ら石器人はジャングルで獲物を追う毎日。それなりに楽
しんでます。ところがその谷に突如現れた侵略者。モビルスーツ、いやマ
ジンガーZ ばりの巨大ロボット型戦闘工作機械を操り、木々を倒し宝石と
銅の採掘にとりかかる。彼らはこれほどの機械力まで持ちながら日常生活
では畜力に頼り採掘坑道では石器人どもを奴隷にして働かせる。自分た
ちは青銅器人だと威張って。ただロボット機の動力源は描かれず。ここら
も不満点ですね。
しかも侵略してきたのは辺境管轄総督の部隊と人民で、彼らの上には
女王がはるか彼方の都にいるらしい。しかしこの銅器人の辺境地とダグ
少年ら石器人のジャングル谷との位置関係がさっぱりわからない。上空
視点からの俯瞰ショットにもう一工夫、欲しかったな。
都の女王と総督の間には伝書鳩ならぬ伝声鳩で通信。この設定はマン
ガっぽく楽しい。でもそれにしてはラスト、いつの間にか女王様が民情
視察に現れてる。たとえお忍びでのお出ましでも、関所守備隊との接触
で、常識的には総督に連絡が届くはず。まるで水戸黄門様ばりの登場。
こういう都合よすぎるお話し展開をデウスエクスマキナと言います。やっつ
け仕事です。
総督官邸城とその城下町の多層的構造の造形はていねい。そこで
摩天楼アクションが繰り広げられます。迫力たっぷり、楽しませてもらった。
何となく宮崎アニメ風、それも「風の谷のナウシカ」のイメージ。

 

どたばたサッカー
しかも城下には辺境地ながらちゃんとコロシアムがあり、そこでダグら石
器人と青銅器人セミプロチームとのサッカー試合が最後の見せ場。教科
書はご先祖様が洞窟に描いてたあの壁画! さっきの話が伏線になって
ます。この設定は上手。
石器人だけでは11人にも満たない。ダグと9人の仲間だ。そこで銅器人
の少女も参入。「サッカーなんて女のやるもんじゃない」。今も問題になっ
てる男女役割りの固定観念ですよ。彼女怒った「だったら石器人チームに
入るわヨ」。これでやっと11人、チーム編成。ところが青銅器人の反則で
石器人長老が怪我、リタイア。そこへ義勇軍。なんとイノシシが登場。青銅
器人チーム苦しくなったら、またもやえげつない反則。あのワル総督、しゃ
しゃり出て自分が審判。自軍の反則に見て見ぬふり。石器人チームの
ファインプレーにはペナルティ。えこひいき。しかもだ、今の試合をリプレイ
して観客に見せるのは即席のギニョール(操り)人形劇。試合のTV中継で
よくあるビデオ再生をパクって笑わせてるのです。でもこちらは操り人形劇
なので好き勝手、どうにでも"再生"でき、これが事実だったと言い張る。
公文書偽造みたいに見え透いたウソの押し通し。どこかのボクシング会長
ばり。あ然、そして大爆笑。
試合再開。もう私は一段と身を乗り出しスクリーンにらむ。石器人がんば
れ!両チームくんずれほぐれつ、パスし、切り抜け、モブシーンの横フォ
ロー。全キャラクターが暴れながらですヨ。そして最後のシュート。
クレイ(粘土)の活劇ドラマ、いやあ見せてくれました。半官半民組織の
英国映画協会が資金援助で製作協力したようです。イギリスは政治経済
いろいろ波乱が続いているようです。でもまだまだ懐の深い国ですね。

 

ぼくの名前はズッキーニ “Ma vie de Courgette”

映画「ぼくの名前はズッキーニ」プレスシートより

ズッキーニ キャラクター人形

 

「ぼくの名前はズッキーニ」主人公

 

 こちらも人形アニメ。原題はフランス語でイギリス英語ならZucchini。
日本ではこちらの呼び方が一般的ですね、この野菜 。2017年の東京
アニメアワードで「ズッキーニと呼ばれて」の題で限定公開。今度が一般
公開です。スイス・フランス合作
人形とはいえ決してファンタジーではありません。人間社会の暗部を
ざっくり切りとって見せつけます。観客にも覚悟が求められる。とはいえ
ハラハラのうちにやっと安定した人生を手に入れたようなホッとした気分で
劇場を出られた。すごい! 人形アニメでこれだけの長尺(66’)を作り上げ
たその底力、そして繁栄するフランスで進行している階級差、所得格差を
悟りゾクッとしました。


フランスの底辺家庭
何か物置部屋みたいな舞台。少年がスーパーヒーローの想像画をたこ
(凧)に描いて窓から空に揚げる。室内にはベッドもある。ははん屋根裏
部屋に住んでいるのか。床板の一部を上げると下の階に通じる階段。
生活水準はあまりよくない。坊や、タコを揚げたまま、糸を椅子の足にしばり
つけ下の部屋へ下りる。そこには缶ビール空き缶散乱。ひでえ。「どっちも
どっちヨ」ひとり言。当初少年の内心の声かなと思ったが、すぐに向いの
居間の母親の声とわかった。母親は昼間からビール飲みながらTV見て
いる。何やら言いあってる声はそのドラマだった。そこへ「お前が悪い」と
TVに空き缶を投げつける。生活も性格も破綻してるな、この人。
坊や、その転がってきたビール缶を拾い、屋根裏部屋へ戻る。ビール缶
を積み重ね塔を造る。よく言えば積み木遊び。でも何となく暗いね。外で
の遊びが苦手な子らしい。ビール缶の最後の1個を缶タワーの上に積み
乗せようとイスに乗り背伸び。そこでふらついて倒れちゃう。積み缶もグラ
グラ崩れ階段口から下へ落ちたらしい音。母親の声「うるさいわね、何な
の」、「またこんなに散らかして」。ひでえ、勝手な言い分。元々は自分が
放り捨てたのを少年が拾ってたのだ。坊や「ご免んなさい。わざとやった
んじゃないよ」。ドスンドスン、階段登ってくる足音。少年、怖くて床の階段
ふたを閉じてしまう。とたんにドタン、バタン、もっとすごい音。シ~ン。坊
や「ママ、ご免ね」、FO。とにかくすごい母親だとはわかった。

 

孤児院生活
一転して郊外を走る車、初老の警官レイモンが運転。車に少年が乗せ
られている。行きついた先が孤児院。車が施設の敷地に入るその俯瞰、
そしてカメラがパンダウンするショットに息を呑んだ。凝った建物、そして
広い庭園、セット美術がすばらしい、あまりにも!
やはり初老の女性園長先生から人定質問を受ける。この先生、なかなか
の人格者。つまり自分の思いこみで人を断罪も罵倒もしない。相手の事情
を何とか分ろうと努力する。幼子が言いよどんでいる事を非難せずなんと
かその子の心情をすくいとろうとする。警官「この子の名はイカール。でも
母親が呼んでたようにズッキーニと呼ばれたいようです」。園長「お父さん
はどこにいるの?」。少年、自分で作ったたこに描かれた絵を見せる「この
人です。でもよそにいます。若い女の方がいいって出て行ったんです」。
私、再び大きくため息。やはり父親の方も問題ありすぎだったのだ。でも
パパに会いたくて絵を、想像画だがスーパーマン風に描いていた。ダメ
ママでもやはり世界で一人の母を慕っていた。そんな母から呼ばれてた
愛称で他人からも呼ばれたかった。驚くのはこういう深刻な人情ドラマを
人形アニメで展開している演出です。室内での対話シーン、動きはほとん
どない。なのにちっとも飽きさせない。緊迫した、それでいてほろりとさせる
人情ドラマになってます。すごい!
その孤児院での生活がドラマの本編。「これがあなたのベッドよ」。でも
その夜からいじめが始まる。消灯後、ボス少年シモンが音もたてず懐中
電灯を点滅させ眠りをジャマする。な~るほど、陰湿。翌朝けんか。ところ
がズッキーニ、意外と強い、びっくり。先生、二人を呼び事情を聴く。「どう
してけんかになったの?」。ボス少年「サッカーしてたら、突然後からこい
つが殴ってきたんです」。先生そんなウソには引っかからない。シモンを
退出させ、ズッキーニと二人で別の話題に入る。そうやって少年の心を開
いていきます。そのプロセスにも感服。パペットなのにその演技に食いつ
かれてしまうのです。

 

園児たちの身の上
しかし意外なことにこのケンカがボス少年との心のつながり、きっかけに
なりました。そしてクラスメイト5人、各々の身の上も知るようになる。少年
少女の身の上がそれぞれに凄い、すさまじい。ボス少年「ズッキーニ、お
前は何でここに来たんだ」。ズッキーニ「お母さんを殺しちゃったの。でも
わざとしたんじゃないよ」。そうかあの屋根裏部屋で飲んだくれ母親から
逃れようとして階段への床板ふたを閉めた。母親はそのふた板で頭を
打ち階段から下へ落ちちゃったのか。観客は想像し、やっと理解できまし
た。観客に自分で推理し感情移入させるドラマ構成です。巧いなァ。
あるいは肌黒の少女は本人が警察か何かに“保護”されてる間に母親が
国外に強制送還されていた。施設に車が来るたびにママが迎えに来て
くれたのかと勘違い、「ママーッ」大喜びで扉を開け、とび出す。そんな子
なのにいざ本物のお母さんがやっと迎えに来てくれたら「いっしょに行くの
ヤ。ここがいいの」。ははんこの母親にもいろいろ問題があるんだな。昔、
我が子に当たり散らしてきたようだ、またもや観客にそこまで想像させて
しまう。見せつけてしまう。すごいすごい。
マイクロバスに乗っての雪山遠足。バスが施設の門を出て公道へ曲が
る。俯瞰ショット、運転手がハンドル回す腕の動きまでアニメイトしてた!
バスの動きがパペット、というかミニチュア・モデルのコマ撮りです。中の
もっと小さい人形まで動かしてるのです。すごい。それをさせた監督、指示
に応えた人形制作、アニメーター、共にすごい。監督クロード・バラス
Clauda Barras、アニメーション監督キム・クークレールKim Keukeleire 、
この姓(でしょうね)、東洋系かな?
とにかく雪山です。ゲレンデで見知らぬ少女と親しくなり彼女からゴーグ
ル借りる。それに気づいた母親「ウチの子に何するの、返しなさい」、ゴー
グル取りあげ「サ、変な子と遊んでんじゃないの。帰りますョ」無理やりその
子の手をひき車に乗せ出発。と、あのゴーグルがポーン、雪の上に放られ
る。あの子が車の中からニッとほほ笑んでウィンクしながら親指立てお別れ
あいさつ。こちらズッキーニも親指立て連帯サイン。この精神のたくましさ。
いじめられてもメソメソしてない。生活力ある!
次は女の子の新入園児、カミーユ。両親が亡くなりおばさんに引きとられ
ていたが、そこで壮絶にいじめられていたようだ。ところがこのおばさん、
外面はいい。なんとかして姪を取り返そうとあの手この手のお芝居。という
のも孤児の姪を引き取ると国から補助金が出るらしい。お金ほしさに姪引
き渡し要求。幼子を食いものにしてるんですよ。家庭裁判所での陳述。
おばさん名演技に判事も心が傾いてしまう、「そこでお嬢ちゃんはどう
思うの?」 カミーユ黙って超小型レコーダー出し録音を再生。つい先刻
二人だけだった時、おばさんが投げつけてた罵声が再生される。レコー
ダーはボス少年から預かってた物。「おばさんについてくのが嫌だったら
これを使え、気づかれるなよ」。技術を武器に使いこなす生活力、たくま
しい。生きる知恵。それを人形の演技で見せているのです。
たまには警官のレイモンさんが面会に。「仕事だから来るの?」「いや、
どうも君のことが気になってね」といったやりとり。「今度ウチに来ないか、
泊りがけで」とまで言ってくれる。で、その日、車で迎えに来てくれた。「荷
物は?」「友だちが運んでくれます」。大きなバッグを友だちが車の後ろ
座席に乗せてくれた。出発。ややあってそのバッグがもこもご動き出した。
あのカミーユが中から出てきた。レイモンさん驚く。「カミーユと別れたくな
いんです」いつしか二人は互いにひかれ合う仲になっていた。園の仲間も
二人を助けようとしていた。友情を無理なく描いていきます。
レイモンさんの家。「ここは息子の部屋だったんだ」「今はどこなの?」「
親を捨てる息子もいるのさ」。ははんレイモンさんにもそれなりの事情があ
ったんだ。そして沢山の観葉植物の鉢。意外な趣味、地味ですね。アニメ
らしからぬ見せ場ですが人情ドラマに浸ってしまいます。

 

ハッピーでビターなエンド
遂にレイモンさんはズッキーニ、カミーユを自分の養子に迎えることにな
る。判事さんの手続。二人を見送る園児仲間5人。互いにハイタッチで別
れのあいさつ。気分いい。
産休だった先生が復職、久しぶりの出勤「私の赤ちゃんよ。可愛いで
しょ」。園児が口々に先生に質問「赤ちゃん醜くくなっても嫌いにならな
い?」「おねしょしても怒らない?」「バカでも怒鳴らない?」延々と5人が
それぞれに親から、大人からいじめられてきた言葉を思い出して問いただ
す。いかに彼らが虐待されてきたか、観客は悟ります。ズッキーニの、そし
て新米ママ先生のハッピーエンド、そして園児たちの身の上のビター
エンド。共に人生、社会の現実だ。
目にくまのある幼な子たち、全員いずれ劣らぬ印象的キャラ造形です。

 

ピンボケ大作も見たよ
このほかアメリカ・ドイツ合作「犬ケ島」、フィンランド・ポーランド合作「ムー
ミン谷とウィンターワンダーランド」も人形です。どちらもつまらなかった。見
てる内に眠くなりウトウト…。“犬”は映画祭受賞作らしい。でも私は審査員
の見識を疑がうなあ。

 

映画「犬ヶ島」

犬ヶ島

 

映画「ムーミン谷とウィンターワンダーランド」ポスター

ムーミン谷とウィンターワンダーランド


プロフィール

小松沢甫アイコン

小松沢 甫 (こまつざわ・はじめ)

日本アニメーション協会 会員・歴史部会
古いフィルムの発掘、保存、公開にも努力
研究は内外の専門書で引用紹介されている
論文に「太平洋戦争とアニメーション 今日も続
く1940年体制・意外で奇妙で厳然たる事実」、
「幻の東宝図解映画社」 主著「持永只仁の足跡・
運命をきりひらいたアニメーション作家」、共著
「キネマ旬報日本映画監督全集(1976)」「山形
国際ドキュメンタリー映画祭 '91 日米映画戦」
など