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アニメーションの散歩道

オーケストラでアニメを見たよ

東京交響楽団チラシ

東響コンサートと早坂文雄

 東京交響楽団が早坂文雄の曲を演奏、これだけでは "あ、そう" の反応だった
でしょう。でも「ムクの木の話」映画上映しながら生演奏と聞いて好奇心ムクムク。
アニメ大好きな私、会場のミューザ川崎へ向かいました。
早坂文雄(1914~1955)は日本を代表する作曲家です。映画ファンにとっては
黒澤明作品のテーマ曲でおなじみ、お耳なじみ。「酔いどれ天使」「野良犬」
「羅生 門」などなど。特に「七人の侍」は私の耳に焼きついています。今でも口をついて
出てくるよ、音痴だけど。その彼はアニメ曲も作っていたのです。あまり知られてない
けど。

早坂文雄のアニメ曲

 作品は「ムクの木の話」1947年 演出丸山章治。でも演奏会プログラムでは「ムクの
木の話し」。しっぽが付いてました。
ここではアニメを語りたいので映画タイトルに あわせます。
ところで私は貧乏人、一番安いC席チケットで入場。これが正解。天井席はオーケ
ストラボックスの真上。コンダクターの指揮、楽器と団員の役割、演奏の熱気が眼下
に! アニメは特にストーリーなし、セリフもなく四季の移ろいを映像で見せる構成。
音楽はかなり効果音の役目も果たしています。だからこのような生演奏上映もできた
わけ。



 大地に一本のムクの大木が立っている。画面トラックアップしてタイトルがラップ。
「秋 このムクの木は ムク鳥や虫たちを楽しく遊ばせていました」。虫たちの演奏会、
カエルが飛びはねる。一瞬恐ろしげな岩山インサート。不安かきたてる。飛び散る
ムク鳥の群。「はやく逃げろ! 岩山から冷たい風に乗って氷魔がくるぞ」 雪オオカミ
襲来。たちまち大地白く凍りつき、死に絶える。暗い世界。と、林の彼方に明るみ。
いぶかる雪魔。春だ! まぶしく輝く女神が現れる。氷の矢は光に照らされ熔けてし
まう。沼では魚がまた泳ぎだし、鳥たちもさえずり始める。
その音楽では氷ショットを鉄琴で、希望の再生、春の回復では木管楽器が優しい
そよ風を表現。

音楽を先に作曲

 元の映画を演奏した東宝交響楽団とは、今回の東京交響楽団の前身。今回は
先輩の仕事を回顧したという側面もあります。
作曲は1946年5月完成(パンフレット記載)。しかし映画は1947年公開。日本アニメ
には珍しく音楽と録音が先行して原画、動画、トレス、彩色そして背景美術など作画
がそれに続いたプレスコアリングだったようです。作曲・演奏は丸山の絵コンテを
もとになされたのでしょう。絵と音楽は完全にシンクロしています。
このアニメはずっと以前、京橋フィルムセンターでも上映されています。その際の
音楽はノイズが多く耳障りでした。フィルムが古かったのでしょう。それに当時の録音
はレコード盤刻みの物理方式、それをフィルムのサウンドトラックへ光学焼付しまし
た。デジタルはおろか磁気録音もなかった時代。しかも戦時中には機器のメンテナ
ンスもされてなかった。聞き苦しい音楽も当然。つまり作曲して70年もたって、やっと
早坂の意図した音楽を聞けたのです。やはりすばらしい。
しかし日本全体が貧しく、明日、いえ今の食べ物にも事欠いてた時代、よくもまあ
こんなぜいたくなアニメを作ったものです。商売にはならなかったと聞いていますが。


写真1.東京交響楽団チラシ
写真2.「ムクの木の話」メインタイトル

 

プロフィール

小松沢甫アイコン

小松沢 甫 (こまつざわ・はじめ)

日本アニメーション協会 会員・歴史部会
古いフィルムの発掘、保存、公開にも努力
研究は内外の専門書で引用紹介されている
論文に「太平洋戦争とアニメーション 今日も続
く1940年体制・意外で奇妙で厳然たる事実」、
「幻の東宝図解映画社」 主著「持永只仁の足跡・
運命をきりひらいたアニメーション作家」、共著
「キネマ旬報日本映画監督全集(1976)」「山形
国際ドキュメンタリー映画祭 '91 日米映画戦」
など