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アニメーションの散歩道

イギリス人はこう見た、日本の戦争アニメ

日本アニメ研究に大きな一歩

 太平洋戦争中のアニメ、叙情名作の『くもとちゅうりっぷ』、そして日本
初の長編『桃太郎海の神兵』、こちらは戦意高揚作ですが、そのレーザ
ディスク、DVD、解説本セットが発売されました。それもイギリスで!

 

イギリス人の日本アニメ研究 映像ソフト(左)と解説本

 



「くもとちゅうりっぷ」(1943 松竹)公開当時のポスター

劇映画の添え物上映扱いだが、その“トリ”の方は島崎藤村小説
とは無関係。お粗末品だったようだ。

 

 ビデオソフトは原版の日本語セリフに英語のスーパーインポーズ・タイ
トル焼付版。2016年5月、カンヌ映画祭招待上映版を用いたのでしょう。
驚いたのは、日本で再公開あるいはTV放映、さらにビデオVHS発売で
カットされていたいくつかのシーン、ショットが復元されていたのです。
つまり擬人化されたサルの落下傘部隊が敵の鬼共を銃剣刺突。鬼は
英語喋ってる。何をパロディ化したかは明らか。やはり軍の命令製作
だなと再認識したものです。再公開に当ってはおそらく“残酷だ”
とカットされてたのでしょう。そこが今度は生きてました。
降伏した敵、鬼共の中にポパイ、ブルートそっくりさんも出演。今でも
アメリカ アニメの人気者。以前の再公開版ではそこもカット、いきなり
SPINACH(ほうれん草)缶詰めがポロ落ちするショットに続いてました。
初めて見た人には意味が通じません。私も若い人から質問受けた
経験あります「あそこは一体何の意味でしょうかね?」って。
今度はまるまる生き返ってました。米著作権期間終了のようです。
一方過剰修復されたなァ、のシーンも。96陸攻機離陸のパン撮影。
エンジン音実物録音、ライブアクション動画の迫力シーンです。ここで
実は画面左端がフレームアウト撮影されていました。同じ撮影ショットを
使い回ししたようで3回同じミスがありました。でもこちらの版では2回目、
3回目ではミスがありません。一番機離陸ショットだけが絵具塗りモレが
見られました。
こんな細かなこと言い立ててる私も嫌な性格だなあ。このニュースを日本
アニメーション協会で会員向けメイル配信したところ、人形アニメ作家
高橋克雄氏のご遺族から思いがけない反応。この話も興味深い。
なんと瀬尾光世、高橋克雄両氏が一時期コラボしてたとか。この話は
またの機会にしましょう。

解説本の執筆者はジョナサン・クレメンツJonathan Clements。2017年
2月、この散歩道でお話しした方です。題名「SACRED SAILORS The
Life and Work of Seo Mitsuyo」(神聖な水兵たち 瀬尾光世の人生と
仕事)。瀬尾の足跡と作品を詳しく検証しそれを縦糸に戦前から戦中
日本アニメーションの発達史を解説しています。
日本人にはとりたてて新しい情報は見当たりません。でも英語圏の人々
にとっては初めての詳細な歴史書。快挙だ。日本人による先行論文も
かなり引用紹介されてます。その多くはKomatsuzawa Hajime、つまり私
の論文でした。光栄です。私の知人では渡辺泰、持永只仁、うしおそうじ
各氏の名があり。おそれ多くも手塚治虫様の名もありましたね。

この「海の神兵」については賛否両論あります。でも見ない事には何も
言えません。以前、見ないで朝日新聞に悪口書いてた人もいましたね。
今回の出版で、彼の地でも発言の基礎条件ができたのです。それも日本
のアニメ史実を踏まえた上での論評がやっと可能になったのです。

高畑勲逝く
アニメーション監督高畑勲が逝去されました。享年82歳。天寿を全う
されたと言いたい。でもかなりのヘビースモーカーだったのも事実。クリ
エーターとはストレスが重なる。ついついタバコに手が伸びてしまうの
です。も少し早く禁煙してれば公約の95歳まで活躍できたのでは
ないでしょうか。



故高畑勲の遺影とサインを配したお別れ会しおり

故人はファンタジーを嫌っていました。でもその映像は現実からほんの
ちょっとの飛躍でファンタジー化してきた、私はそう思います。出世作
「ホルスの大冒険」からそうでした。ホルスの使うまさかり、当時人気絶頂
だった白土三平の劇画「ワタリ」に影響されてます。日常ありふれた道具
を強烈な武器にしている、一見リアリズム。しかし遠心力で回転させる
ショットはもうファンタジーだ。あるいは海岸からの船出シーン、小船が
荒波に呑まれた! 次の瞬間大きく帆が開く。希望を絵で見せた名ショ
ット。これこそファンタジーですよ。

 


「ホルスの大冒険」(1968 東映動画・現東映アニメーション)動画と
彩色セル 動画をセルにハンドトレスして手彩色していた時代

5月15日、お別れ会は大勢の弔問客でした。会場誘導はジブリ美術館
ラインと葬儀社、警視庁からも警官2名が出張ってました。午前中の関係
者では代理店関係が多かったようで、やはり正式な喪服姿が多かった
ですね。中には黒Tシャツに黒ブレザー姿の方も。アニメーターでしょう。
「平服でお越しください」の趣旨からはこれが正解か。式は無宗教で
各自白いカーネーションを一輪ずつ献花。私は数珠を手に合掌。
午後の一般参拝は車椅子の老人から赤ちゃんを抱っこしたお母さん
まで。いかに多くの皆さんに高畑ワールドが愛されてきたか、改めて
わかりました。ご冥福をお祈りいたします。

プロフィール

小松沢甫アイコン

小松沢 甫 (こまつざわ・はじめ)

日本アニメーション協会 会員・歴史部会
古いフィルムの発掘、保存、公開にも努力
研究は内外の専門書で引用紹介されている
論文に「太平洋戦争とアニメーション 今日も続
く1940年体制・意外で奇妙で厳然たる事実」、
「幻の東宝図解映画社」 主著「持永只仁の足跡・
運命をきりひらいたアニメーション作家」、共著
「キネマ旬報日本映画監督全集(1976)」「山形
国際ドキュメンタリー映画祭 '91 日米映画戦」
など