カルチャー系ウェブマガジン「ReadingParty」

トップバナー
アニメーションの散歩道

広島へ行ってきたよ アニメお祭り

第16回広島国際アニメーションフェスティバル

 2年毎に開かれるこのフェスティバル、今年は回を数えて第16回。営々と続けて
きたものですね。一昨年のフェスでは半ばであの豪雨大災害。開会式で胸はって
あいさつしていた広島市長は閉会式には欠席、助役さんが代理出席してました。
今年はそんなことなく 5日間猛暑。


広い会場、三つのホールでアニメーション同時上映。別会場ではワークショップや
展示も並行。ロビーでは関連グッズを常時販売。どのプログラムを選ぶか、かなり
迷います。筆者はお昼休みもとれず、毎日出張販売のお好み焼き弁当食べて
ました。

 

広島フェス会場アステールプラザ内部
写真1.広島フェス会場アステールプラザ内部

 

 そして注目されるのがコンペ。全世界から2,248本の応募作。厳選された60本を
審査上映。中にはフランスのナタリア・チェルニソバ監督「2匹の友達」「小さなクモの
巣」、あるいはカナダのテオドル・ウシェフ監督「眠った歩行者」「盲目のバイシャ」と
一人で2本入選の才能もいました。
上映中客席からフラッシュ撮影バチバチ、映写妨害されたのがハニ・ドンベ、トム・
クーリス共同監督「リリ」。人形アニメでヒロインが美少女。なので初めはおタク趣味の
アホかな、と思いました。でもフラッシュ炊くのが訳わからない。おそらく嫌がらせで
しょ。イスラエル出品なので。しかし政府や軍の暴挙と個人の芸術作品は別だ。
私はこのような行為、許せません。
社会弱者への共感連帯を訴えた作品が多かったが今回の特徴。ボスの暴力に
さいなまれる少年を描いたガブリエル・アレル監督(フランス)「ユルと蛇」、密猟者に
殺される善良な少女セザール・ディアス・メランテス監督(スペイン)「セポ」、前記の「
盲目のバイシャ」など。その中でも白眉だったのが現代社会の無責任、いわゆる
落差を激しく告発した力作アゲロス・パパントニオウ監督(オーストラリア)「ミセス
メトロ」。ただしこの作品、審査委員には不評のようで受賞せず。
最終日夜、表彰式。グランプリは韓国フランス合作チョン・ダヒ監督作「空き部屋」。
韓国人のグランプリ受賞は初めての快挙。彼女、感極まって泣いてました。この人、
前回広島でも韓国フランス合作「いすの上の男」で審査員特別賞に。
これからも才能がますます花開くことを期待します。
※注意:広島フェスでは日本・中国以外の出品者はいずれも 名 → 姓 の順で
表記、アナウンスしていました。しかし筆者は東アジア人の場合、習慣に従い
姓 → 名 の順にお呼びします。 タイトルは一部仮訳しました。

 

フェスティバル・パンフレット 林静一イラスト
写真2.フェスティバル・パンフレット 林静一イラスト

 

 

前号で紹介しました「ファーザーアンドドーター」が(岸辺の二人)とサブタイトル
されて上映。商業公開時との整合を図って併記されたようです。今回は審査委員
ウィレム・タイセンのプロデュース作として紹介。同氏「ドゥ・ヴィットが私にプロデュ
サー頼んできたんです。ところが製作費かかりすぎて€2,000万 もかかりました」。
えっ、短編製作費としてはあまりにも高額。あるいは筆者の聞き間違いかもしれませ
んが。なおドゥ・ヴィット監督はベルギー人だそうです。あの国は南はフランス語、
北はオランダ語。フランス系なので姓に “de” がついてるのか。前号で彼の国籍
オランダ人としたのはミス。訂正いたします。

特別プログラム長編ドキュメンタリー「映画界の冒険家 カレル・ゼマン」(チェコ)、
面白かったヨ。人形アニメーションそして特撮スペクタクル映画監督ゼマンの
撮影プロセスを再現解説してます。代表作「前世紀探検」(1954)の恐竜をどう
作り、どう大暴れさせたか、手品の種明かし。あるいは「悪魔の発明」ではスタッフ
思い出話「あそこに出てくる海賊どもの縞模様ズボンはどこにも売ってなかった。
仕方ない。あの模様は後から合成したんですよ」とか、映画ファンならドキドキ。
そのチェコも1968年ソ連軍指揮下のワルシャワ条約機構軍侵入でプラハの春弾圧。
それからはゼマン御大も活動発言を許されなかったとか。晩年はカナダNFBスタヂオ
でお手伝い程度の日々でした。

日本の古いアニメーション回顧上映会もありました。これがドタバタ多く、疲れた。
「アリとはと」1959年渡辺和彦監督とあったのが、上映作は1953年湯原甫監督
でした。もっと問題だったのは戦時中の「桃太郎 海の神兵」、あの手塚治虫大先生
を感激させて、後の「ジャングル大帝」にもつながる名作です。これがなんと無声
上映。観客はア然。激怒された方もいました。最終日に訂正上映されましたけどね。
無声“神兵”事件は、フィルムが光学録音版で主催者用意の最新式映写機では
再生出来なかったそうです。ただし桃太郎隊長が「YesかNoか」と敵の鬼親分を
威嚇する部分はカット。敵兵ポパイが逃げ出し、空っぽほうれん草カン詰が手から
ポロ落ちするシーンもなかった。今では問題になりそうな部分、見事にスッポ抜け。
検閲カット現代版。あそこ、も一度見て大笑いしたかったのに。

 

アゲレス・パパントニオウ監督の「ミセス メトロ」ホームレス女と乳児への無関心と虐殺を描く。©Aggelos Papantoniou

写真3.アゲレス・パパントニオウ監督の「ミセス メトロ」。ホームレス女と乳児へ社会の無関心と虐殺を描く。

 

 

プロフィール

小松沢甫アイコン

小松沢 甫 (こまつざわ・はじめ)

日本アニメーション協会 会員・歴史部会
古いフィルムの発掘、保存、公開にも努力
研究は内外の専門書で引用紹介されている
論文に「太平洋戦争とアニメーション 今日も続
く1940年体制・意外で奇妙で厳然たる事実」、
「幻の東宝図解映画社」 主著「持永只仁の足跡・
運命をきりひらいたアニメーション作家」、共著
「キネマ旬報日本映画監督全集(1976)」「山形
国際ドキュメンタリー映画祭 '91 日米映画戦」
など