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アニメーションの散歩道

幻の人形アニメーション

かぐや姫人形
人形©東京中央プロダクション

あまり有名じゃないアニメ作家

 人形アニメ作家高橋克雄、彼の名はアニメファンの間でもそれほどは知られていま
せん。教育映画界の人というイメージが強いような気がします。作品プリントが主に都
道府県の視聴覚ライブラリーで貸出されてきたからでしょう。陶器人形という独特の
手法を使った『野ばら』が最高傑作(小川未明原作)。当時の経済新聞が絶賛したり
赤十字映画祭でも受賞。これでアニメファンを余計遠ざけてしまったのかも。硬そうだ
な、って。現在のように国際情勢がきな臭くなっている時代にこそ見なおすべき作品
です。戦争の有無を言わせぬ恐ろしさ、むなしさが静かに身に迫ってくる大作でした。
でも彼の作品とは気づかないまま見ていた、それも大勢の人が何げなく見ていた
超短編もあります。『赤いサラファン NHKみんなのうた』、年ごろになった娘への
母親の愛情がしみじみと出ていました。研ナオコの歌もすてきだった。


氏は昨2015年逝去。故人を偲び、スタジオ地元の葛飾区の人々を招いた回顧上映会
がありました。区が後援したようです。なぜか私まで出かけました。プログラム
に、あの「幻の名作」が入っている。も一度見たいので。

 


人形©東京中央プロダクション

日本では見られない名作!?

 人形アニメ『かぐや姫』、実はこの作品1972年作と古いのです。が、国内では今まで
ほとんど上映されていません。外務省委託映画でプリントは在外日本大使館へ配布
され現地の日本紹介イベントなどで上映。日本人学校で上映されたり、各国ライブラ
リーにプリント寄贈されたそうです。音声は各国語版。日本語はありません。スポン
サーの外務省は国内公開など考えてなかったようです。私も2012年の広島国際アニ
メーション・フェスで初めて見ました。そしてびっくり。超豪華大作なのに唖然。
平安時代美をこれでもか、これでもかと眼前に示してくれました。
今回上映も英語版でした。日本語は字幕もなし。でもよく知っているお話です。
理解しやすい。せりふなくナレーションで進行。林光(はやし・ひかる)の音楽は
音効兼ねています。

 

One thousand years ago there was …大昔の日本のお話が静かに語られていきます。
竹取のお爺さんが竹を切るのはイント部だけ。One day で始まる次のエピソ ード
で光り輝く竹を見つけます。竹を切らずに、そっと両手を伸ばすと、まるでおひな
様のような赤ちゃんを取りだす。この映像合成ショットは幻想的。編集ではなく現場で
ハーフミラーで二重撮りしたそうです。
お婆さんが竹を編み籠を造る。女の子をその中に入れ、共に育てる。ここもいい。
竹編み作業そのものが昔話のムードをかもしだす。以後林で竹を刈ると黄金があふれ
出し、一家は御殿に住む身分。
美しく成長した姫を見ようと世の人々の珍騒動。塀よじ登りのドタバタ。貴公子達の
求婚。姫は嫌がり、それぞれに難題を課す。ここは原作通りですが、その問題が
巻物に書かれ白木の高坏に乗せ、うやうやしく提示される。時代の感じがあふれた
表現ですね。うっとり引きこまれます。
龍の玉を命じられた大臣は船を仕立てて海に乗りだしたのはいいが、嵐にあい
命からがら。金枝銀玉の模型を作った大臣は意気揚々と姫邸に乗り込む。そこへ
職人たちが跡をつけて来て「工賃を払ってくれ」大騒ぎ。原作はここで権力者の実態
を笑い飛ばしているのです。アニメはその風刺をきちんと映像化。楽しい。
満月の夜、空の彼方から光り輝くお迎えの一行。姫は月へ昇天。このエピローグは
正調の日本趣味。輝いているのはUFOではありません、御所車。神々しい光で閉じ
られていた戸が開いてしまう。しとみ戸も開いてしまう様が美しい。姫を地上に、

俗世界に留めておこうという人間の努力も光に目がくらみ消え去る。屋敷を厳重に警護

していた侍の弓一つ一つに巻かれた絹糸に至るまで美しく造型。寝殿造り建築と庭園
の広いセットもさりながら、豪華なコスチュームが目を楽しませてくれました。
ただしある友人は反論、「確かにかぐや姫はきれいだった。でも動きはぎこちなかっ
たよ」。確かに一理あります。でも少し自然主義、リアルな表現をよしとする価値観に
染まりすぎてるように私は思います。ここにはダイナミックな動きや正確な筋肉歩行は
ありません。しかし人形ならではの象徴的な世界が自己完結。その魅力に引きこまれ
た私は大感激だったのです。

 

このアニメ、回顧展や特別の催しで、たまには上映されています。ご注意ください。
ビデオは出ていません。もっとも英語版のまま出したら妙な愛国主義者が因縁つけ
てくるかもしれませんな。

写真1.かぐや姫人形(2015.5.3 回顧上映会で筆者撮影)
写真2.お爺さん、お婆さん人形(2015.12.12 回顧上映会で筆者撮影)

 

プロフィール

小松沢甫アイコン

小松沢 甫 (こまつざわ・はじめ)

日本アニメーション協会 会員・歴史部会
古いフィルムの発掘、保存、公開にも努力
研究は内外の専門書で引用紹介されている
論文に「太平洋戦争とアニメーション 今日も続
く1940年体制・意外で奇妙で厳然たる事実」、
「幻の東宝図解映画社」 主著「持永只仁の足跡・
運命をきりひらいたアニメーション作家」、共著
「キネマ旬報日本映画監督全集(1976)」「山形
国際ドキュメンタリー映画祭 '91 日米映画戦」
など