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ほのぼのショートショート ひげおじさん

第10話「憧れの人」



 

ある日、ある時、影が薄く、ヨロヨロと歩く若者がいた。

 

ひげおじさんはなぜか気になり。「悩みごとでもあるんですか」と声をかけた。

 

「恋をしています。胸が苦しくて卒論が手につきません」とうなだれた。

 

話してみると真面目な学生さんだ。

 

力になってあげたい。エロス〈ギリシャ神話の愛の神様〉に会いに行った。

 

「ひげおじさんに頼まれたら断れませんね、やりましよう。私が彼女の頬
(ほほ)にキスをすれば120%成功します」と胸をたたいた。

 

女子大の校門で待った。

 

「あの子です」と彼が消え入るような声で言った。

 

魅力的でとても可愛い子が友達と歩いて来る。

 

エロスが女の子の頬にキスをしようとした瞬間、

 

彼女は靴のヒモを気にしていきなり屈(かが)んだ。

 

エロスはまるまると太った、ニキビ満開の
隣(となり)の女の子にディープキスをした。

…………………………………………

 

ある日、ある時、ひげおじさんは散歩をしていた。

 

夢遊病者のような彼に出会った。

 

「何かあったの?」と声をかけた。

 

「部屋にラブレターの山ができ、寝ていたら下敷きになり
窒息(ちっそく)して死ぬとこでした。
5分ごとに携帯が鳴ります。あれから一睡(いっすい)もしていません」と
青黒い顔で言った。

 

「住所と携帯の番号を変えてみたら」とアドバイスをした。

 

「30回住所を変えました。携帯の番号も61回変えました」と
言い終わるとヨレヨレとくずれ落ちた。

 

「逆療法(ぎゃくりようほう)だけど彼女と会ってみては」

 

「今よりひどくなったらひげおじさんが責任をとってくれるんですか~」と
睨(にら)み付けられた。

 

彼の青黒い顔が赤黒くなった。

 

「この苦しみから逃れられるのなら………」と引きつった顔で。

 

「やってみます~」と言い終わると立ったまま爆睡(ばくすい)をした。

 

…………………………………………

 

しばらくして彼に会った。

 

「彼女とは何回も会いました。女の子て外見じゃあないですね。
純粋(じゅんすい)でとても良い子なんです。
そよ風のように優しくて可憐(かれん)なんですよ」

 

「貴方のためにダイエットをしてニキビを直すの」と彼女が言いました。

 

「やめえくれ~そのままの君が好きなんだーと叫びました」

 

「廻(まわ)りの人がビックリするぐらい大声を出してしまったんです」

 

「あの子より彼女の方が好きになりました」とテレながら頭をかいた。

 

ひげおじさんは、ホッとして、ニコッと微笑んだ。

 

プロフィール

林 恭三

林 恭三 (はやし・きょうぞう)

日本アニメーション協会 会員