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ほのぼのショートショート ひげおじさん

第2話「マンション」


ひげおじさん02


ある日、ある時、夏の暑い日であった。ひげおじさんはある星のマンションに住
んでいた。

仕事で泥のように疲れ、まずは風呂に飛び込んだ、蛇口をひらいたまま湯船に肩
までつかりホットして寝てしまった

目を覚ますと水の中で寝ている。窓の外を見ると雪が降っていた。風呂に飛び込
んだ時はたしか夏だった。

しまった。出なくてはと思ったが面倒くさくなり水の中で暮らすことにした。

マンションにプランクトンが発生をして、魚が住むようになった。

しばらくするとイルカが人なつっこくよってきて泳ぎ回り、鯨が現れ潮を吹く
たびにマンションはゆれた。日本の捕鯨調査船まで現れ、鯨を追いまわしマンシ
ョンは騒然となった。

魚の友達もできた。ピチとスイスイと言って気立ての良い恋人どうしであった。

どこから湧いて来たのか鮫(さめ)が住み着き、危険でノンビリと昼寝も出来
なくなった。

鮫はピチに横恋慕をして、バラクーダーやマカジキなど凶暴な魚を手なずけボス
気どりで鯛や平目を踊らせ、ピチを小脇にかかえて昼から酒盛りをしている。

スイスイは男のくせに藻(も)の中にかくれ震えながら涙を流している。ひげお
じさんだって怖い。なんとかピチとスイスイを救ってあげたい。

酔って寝ている鮫たちを起こさないように、ピチを助け出し風呂の栓(せん)に
ひもを結びつけ、トイレに逃げ込み鍵をかけ皆で思いっきり引っぱった。

ゴーと言う轟音とともに調査捕鯨船も鯨も、イルカもバラクダーもマカジキも凶
暴な鮫も風呂の穴に吸い込まれた。

ピチとスイスイを金魚鉢に入れ海にもどそうと思ったら ″トントン″ と玄関
(げんかん)をたたく音がした。誰だろう。

鮫の復讐か、ふるえる手でひげおじさんは、扉を恐る恐るあけた。

マンションの管理人さんが青い顔をして立っていた。

「お久ぶり、どうかされましたか?」とひげおじさん。

「ところでお変わりありませんか。心配をしていました」青黒い顔で管理人さんが
応えた。

「まさかこのマンションが3年も海だったのを知らなかったんですか?」

「ハーア~」

「春はボート屋が出来まして、恋人どうしが船遊びを楽しんでいましたが、夏には
家族ずれが海水浴に来て子供たちが大騒ぎ。若者たちは車やバイクで走りまわり、
騒音をたててカーレース。酒を飲み夜通しドンチャン騒ぎ」と言って涙目になっ
た。

「秋は紅葉狩りでマンションは、はちきれんばかり。日が暮れると夜釣りで眠れま
せんでした」

「冬は、流氷が流れつき、氷山がプカプカ浮いていてシャチに追いかけられ、マ
ンモスにふみつぶされそうになるは、白熊の餌食(えじき)になるところでし
た」と言うとヘナヘナと崩れ落ちた。

「いや~まったく気がつきませんでした。災難でしたねー」と涼しい顔で、ひげお
じさんは海岸に向かった。

 

プロフィール

林 恭三

林 恭三 (はやし・きょうぞう)

日本アニメーション協会 会員