第3話「贈り物」
ある日、ある時、寒い日であった。雪が降って来た。ひげおじさんは
オーバーのえりを立てちじこまった。
たしか今夜はクリスマスイブだ。
恋人同士がベンチに座っている。
彼には家族はいない、アルバイトで得るお金は学費と生活費で消えてゆく。
彼女は大家族のため働いたお金はすべて家計のたしにしている。
こんな夜はカフェで熱いコーヒーを飲みたいが、お金がない。
女の子が持って来たポットから湯気がたちのぼる。二人はカップで手を
暖めた。
リボンのついた箱を交換(こうかん)している。クリスマスプレゼントだ。
恋人同士が見つめ合いながら箱を開けた。出て来たのは一枚の紙切れ
だ。おたがい食い入るように見つめている。
「幸せ」と女の子は彼の手を頬(ほほ)にあてた。
「きっと実現するね」と彼は彼女の髪をなでた。
「貴方と子供と温かい家庭を築(きず)くのが夢」と女の子は書いた。
「君を幸せにする。そして永遠に愛しつづけるんだ」と男の子は綴
(つづ)った。
二人は、夢をプレゼントしたのだ。
時は過ぎ、彼は中堅企業の営業課長になった。
結婚をして3人の子宝に恵まれた。
寒い、雪が降って来た。クリスマスイブだ。ひげおじさんはオーバーのえ
りを立てた。
あの恋人同士の家族がプレゼントの交換(こうかん)をしている。
笑い声が温かくクリスマスツリーをつつんだ。
ひげおじさんは、ホッとして、ニコッと微笑んだ。