カルチャー系ウェブマガジン「ReadingParty」

トップバナー
ほのぼのショートショート ひげおじさん

第7話「サムソン」


ヒゲおじさん07
ある日、ある時、ひげおじさんは宇宙を ″フンワカフンワカ″ とただよっ
ていた。

巨大な貨物ロケットが止まっている。

不信に思い操縦席(そうじゅうせき)をのぞいた。

大男が微動(びどう)だにしない。かすかに唇がうごいた。「外が見たい」

真夜中なのに窓に灯(あか)りが付いていた。

「会えた」と言うと息たえた。

会社名と「サムソン」とシールが貼(は)ってある。

連絡をとった。

格納庫に着くとお母さんが「よくつれて来てくれました。有り難うございま
す」と涙を流し頭を下げた。

「彼は、最後に窓の灯りを見て『会えた』と言いましたが?」

「はい、ある時、小型ロケットが事故していました。覗(の)ぞいてみると美
しい少女が泣いています、何を聞いても黙ったままです」と、お母さんは話し
出した。

「積み荷の配達が遅れると大変です。しかたなく少女を連れて行く事にしまし
た」

「ある時、真っ赤に燃えた隕石(いんせき)が少女に追突する瞬間(しゅんか
ん)体当たりをしました」

「彼はピクとも動きません。少女は涙をうかべ『死なないで』と初めて口をひ
らきました」

「サムソンは立ち上がり ″ニコッ″ と微笑(ほほえ)みました。少女は夢中で
抱きついてきたそうです」

「それからサムソンに懐(なつ)き」

「手をとり合い、冗談を言って大笑いをするまで親(した)しくなりました」

「仕事も終わりに近ずき、住んでいる所を聞いても言いません」

「諜報員(ちょうほういん)が現れ、いきなりサムソンに手錠(てじょう)をか
けました。少女はレモン星のお姫様だったのです。彼は誘拐犯(ゆうかいはん)
にされてしまいました。重罪です」

………………………………

「お姫様はサムソンに『楽しかった』と呟(つぶや)きました。頬(ほほ)が涙
でぬれていました」

「お妃(きさき)様が亡くなられ、お姫様は王様と過密な行事に同行することに
なりました。そんな時、煩(わずら)わしさから逃(のが)れるため近衛兵のロ
ケットに飛び乗りお城を飛び出したのです」

「王様は諜報員から事の次第を聞き、サムソンは無罪になりました」

「お姫様は、何日も何日も泣き続けました。サムソンを愛していたのです」

「彼女は、お城の一室に幽閉(ゆうへい)されてしまいました」

「どこで調べたのかサムソンのロケットがレモン星を通る時、真夜中でも、お姫
様は部屋の灯(あか)りを付けるようになりました」

「灯りを確かめるのがサムソンの生き甲斐(がい)でした」と言い終わると「私
のサムソン」とひげおじさんの膝(ひざ)に泣き崩れた。

優しくお母さんを抱きしめた。

悲しみは、ひげおじさんの心に深く深く染(し)みこんでいった。

プロフィール

林 恭三

林 恭三 (はやし・きょうぞう)

日本アニメーション協会 会員