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ほのぼのショートショート ひげおじさん

第4話「おばあさん」


ひげおじさん04


ある日、ある時、東京でオリンピックが開かれていた。

ひげおじさんが歩いていると猛烈(もうれつ)ないきおいでヨボヨボのおばあさ
んが追っかけてくる。殺気に恐れをなし国立競技場に飛びこんだ。

100メートル競争がスタートをした。世界記録保持者の黒人選手が9秒をきる寸
前にひげおじさんはテープを切った。

トラックを一周すると国立競技場をあとにした。ふり返った。おばあさんが鬼の
ようんな形相(ぎょうそう)で追っかけてくる。

必死で逃げて来た沖縄では、トライアスロンで盛(も)り上がっていた。ひげお
じさんはスイム(水泳)のスタートで海に飛び込んだ。泳ぎは得意(とくい)だ。
ふり返るとおばあさんも泳ぎが得意だった。

バイク(自転車競技)になった。必死にペダルを踏(ふ)んだ。集団に紛(まぎ)
れこみ ″ホッ″ とした。うしろを見るとおばあさんも必死でペダルを踏んでいた。

ラン(マラソン)になった。ひげおじさんはマラソンが得意であった。これで逃
げきれる。しかし、おばあさんは早い、ドンドンと追いついてくる。

オリンピックで4連覇(れんぱ)を果たした。フィンランドの英雄をおばあさん
が追いぬき、テープを切った。

英雄は天を仰(あお)ぎ号泣をした。

どこまでも追っかけてくる。地球はおろか宇宙中逃げ回った。もう駄目(だめ)
だ。恐怖のあまり震えが止まらなくなった。

鬼気せまる形相(ぎょうそう)でおばあさんは ″ヒタヒタ″ と迫(せま)って
来る。

″ピタッ″ と止まった。

「落とし物」と言って十円玉をひげおじさんに渡すと、おばあさんはソソクサと消
えた。

 

プロフィール

林 恭三

林 恭三 (はやし・きょうぞう)

日本アニメーション協会 会員