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ほのぼのショートショート ひげおじさん

第9話「めざめ」



 

 

ある日ある時、少年は目覚め、窓を開け朝日を全身に浴びた。

「チュンチュン」と小鳥の鳴き声が心地いい。

大きく背伸びをして、自転車で散歩に出かける。

道端になっているリンゴをカゴに入れ、魚を釣り、野生の野菜をつんで
今日一日の食料を確保した。

図書館により、数冊の本をとり出しサイクリングと洒落込(しやれこ)んだ。

頬(ほほ)を春風が優しくクスグル。

夜の帷(とばり)が山野を包み、少年はベットに飛び込んだ。

          ……………………………………

彼は、直径1000キロの宇宙船にいるのだ。海があり、川もある。

銀嶺(ぎんれい)たなびく山があり美しい自然がある。

宇宙船は、地球と同じ環境に保たれている。

新興国も先進国もすべてが工業化を進め二酸化炭素が大気をおおった。

二酸化炭素を地中深くに埋ることで地球温暖化を防いだ。

人類は、エネルギーを原子力にたより、放射性廃棄物(ほうしゃせいは
いきぶつ)をガラス個体化にして岩盤深く埋蔵(まいぞう)をした。

地殻変動(ちかくへんどう)で二酸化炭素は地上に放出をされ、

放射能が地下水に溶(と)け海に流れ、地球をおおった。

宇宙船は植物、動物、人間、すべての生物を乗せ宇宙を彷徨(さまよ)っている。

地球は、生物の住める星ではなくなった。

          ……………………………………

明くる朝、少年は、窓から地球をながめ欠伸(あくび)をして、深呼吸をした。

ひげおじさんは、窓ごしに手をふった。

彼は ″ビク″ と飛び上がり逃げて行った。

もどって来て、ひげおじさんを穴のあくほど見つめ。

涙で霞(かす)んだ目で、少年はニコッと微笑(ほほえ)んだ。

           ……………………………………

少年は、宇宙船に残った、ただ一人の人間である。

 

プロフィール

林 恭三

林 恭三 (はやし・きょうぞう)

日本アニメーション協会 会員