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ほのぼのショートショート ひげおじさん

第5話「ビン」


ヒゲおじさん05


ある日、ある時、ひげおじさんは宇宙をただよいながら昼寝をしていた。

頭にコッンと当たる物がある。

ひょいと見ると ″ビン″ が浮いている。中に紙のような物が入って
いた。
見ると「さそり座のアンタレスの近くの星に漂着をした ″SOS″アダン」
と書いてあった。

星をさがし出した。

いきなり老人に出会った「アダンさんですか?」と声をかけた。

ひげおじさんを見ると ″ビクッ″ として、逃げて行った。

気候も良いし食べ物も美味しい。居心地がよくアッと言う間に数週間が
過ぎた。目を覚ますと先日の老人が立っている。

「あれを見たんですか」と彼は言った。

「はい」

「最新鋭の天体望遠鏡でも見えない星なんですが?」

「ハァァ…………………なぜこんな所にいるんですか?」とひげおじさん
は聞いた。

「私は、セントポール星の科学者でした。無尽蔵(むじんぞう)に尽きる
ことのないエネルギーを発明しました。
災害をなくし人工知能を持ったロボットを作り、人間のやる事はなくなり
ました。飢(う)えも地上から消えたのです」

「人工臓器(じんこうぞうき)を発明をして、人々は永遠に生き続ける事
ができるようになりました。
一切の悩みをとりのぞく薬を作り、一生楽しく暮らせるようになりました」

「永遠の天国を発明してしまったのです。人々は努力をせず無気力にな
り、やがて生きた屍(しかばね)のようになってしまいました」

「しかし大統領は正気でした。星が崩壊(ほうかい)する事を恐れて必要
な物資を宇宙船に積み、二度と戻れないように私を宇宙に追放したのです」

「………………………………?」

「何年も大統領を恨みました。時がたつと共に、神様は見事に人間をお創
りになさった事に気がつきました」

「災害、戦争、飢え、貧困、病気、物欲、失恋、人間関係のもつれ、死。
生きていれば無限に悩みがあるのが人間です」

「人々は、生まれてから死ぬまで不安から解放されません。そのため人間
は努力をするのです。そこに生きて行く活力が生まれます」

「私は、科学の力で人間の本能を衰退(すいたい)させてしまいました」

ひげおじさんはなるほど、と思った。

「そのビンは若い時、人恋しさのあまり作りました」とSOSの紙に火をつ
けた。

「ここの生活にも慣(な)れました。宇宙中の星が私を血眼でさがしてい
ます。ほかの星では絶対に話さないで下さい」

「楽しい天国生活か………」ひげおじさんもあやかりたいと思った。

アダンと幸せな一時をすごした。

ひげおじさんは放浪癖(ほうろうへき)がうずきだした。

別れの時が来た。

アダンはひげおじさんに抱きつきはなさなかった。

彼の瞳から涙があふれ出た。アダンは二度と人間に会う機会はないだろう。

ひげおじさんも「わ~んわ~ん」と大声で泣いた。

彼はいつまでもいつまでも手を振っている。

……………………………


「さらばアダン…………」

プロフィール

林 恭三

林 恭三 (はやし・きょうぞう)

日本アニメーション協会 会員