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ほのぼのショートショート ひげおじさん

第1話「ひげおじさん誕生記」


ひげおじさん01


ある日、ある時、私は40を少し過ぎていた。
経営していた会社は、小さな企業の多い業界ではあったが大手であった。

しかしあるときかつてない不況の嵐が吹き荒れ、
会社はまばたきもしないうちに潰れた。
子供はいなく親兄弟はさらになく、
女房は会社が潰れる前に全財産を持って消えてしまった。
借金取りに追い回され、自殺も試したが死にきれなかった。

ある日、行くあてもなくトボトボと歩いていた。
突然カミナリが頭を直撃をした。
ピカピカと光ながら1300メートルほど飛ばされ、
1300回転をして無傷でスックと立ち上がった。

その後、私に不思議な事が起こった。
身体が空中にプカプカと浮かんだ。
コウモリ傘とカバンを持って風の吹くまま気のむくまま、
地球のすみずみはおろか宇宙の果てまで放浪の旅を続けた。
待つ人とて無く、気ままな旅暮らしが身についた。


ある時、故郷に立ち寄った。
昔の面影は今は無く、知る人とて居ない。
突然、涙が流れ出し止まらなくなった。
10年は泣き続けた。
涙で100メートルほどの深さの穴が開いた。

また私に不思議な事が起こった。
悲しみを全て吐き出したのだろう。
重病の人が私に会うと全快をする。
通り過ぎるだけで枯れかけた木も花も傷ついた動物も元気に生き返った。
激しい戦場に行くと、ピタリと戦争は終わり、
敵味方無く抱き合い大声で笑った。



ひげおじさんが必要ならば、
地のは果てはおろか宇宙のすみずみまで骨身を惜しまず出かけて行く。
人々の心の中でひげおじさんは、いつもホッとして、ニコッと微笑んでいるのだ。

(つづく)

 

プロフィール

林 恭三

林 恭三 (はやし・きょうぞう)

日本アニメーション協会 会員