カルチャー系ウェブマガジン「ReadingParty」

トップバナー
ほのぼのショートショート ひげおじさん

第8話「トラ猫ボス」



 

ある日、ある時、ひげおじさんはトラック野郎だった。

食堂の入り口で薄汚れたトラ猫と目があった。胸にキューンと来た。

家族のいない自分、捨てられたトラ猫と何かが引き合ったのだろう。

トラ猫にボスと名前を付けた。トラックの助手席に乗せ日本中どこへで
も連れて行った。

食事も風呂も寝る時もいっもいっしょだった。

家族が出来たようだ。

ある日食堂に入る時、野良のメス猫を見かけた。その日からボスがひげお
じさんの前から消えてしまった。

ボスが助手席に乗っていないと何か落ち着かない。悶々(もんもん)とし
た日々が過ぎて行った。

日が経つうちにボスの事が気にならなくなった。

いつもの食堂で飯(めし)を食べ、外に出た。空を見上げたらビルの屋上
に2匹の親猫と3匹の子猫が見えた。

先を歩いているのはボスのようだ。大声で「ボス~」と呼んでみた。

猫たちは何事もなかったように何所(どこ)かに行ってしまった。

「間違(まちが)いか?」と思いトラックに乗り込んだ。

汚れたボンネットを見ると無数の猫の足跡が付いている。

やっぱりボスだったんだ。子猫をひげおじさんに見せに来たんだ。

幸福そうなボスを見かけたひげおじさんは、ホッとして、ニコッと微笑
(ほほえ)んだ。


プロフィール

林 恭三

林 恭三 (はやし・きょうぞう)

日本アニメーション協会 会員